表現力はコミュニケーションの鍵
動物は単独の個体のみでは生きていけないため、他の個体と何らかのコミュニケーションを取ります。自分が今感じていることや欲していることを、目の前の相手に伝える必要があるからです。この送り手と受け手の間で送受信される情報のやりとりをコミュニケーションと呼びます。しかし、このプロセスが常に正しく行われるとは限りません。特に人間の思考や感情はとても複雑なものなので、それを正確に表現し伝達するためには様々なスキルが必要になるでしょう。
そんな私たち人間が日常的に使うコミュニケーションには大きく分けて4つの方法があります。言葉を「話す」という表現による言語コミュニケーション、体を使った「身振り」や「しぐさ」などの表現による非言語コミュニケーション、文字にして「書く」という表現による文章コミュニケーション、そして、絵や図などを「描いて見せる」という表現によるビジュアルコミュニケーションです。これらのスキルを駆使し、時に何種類か組み合わせて、私たちは複雑な自分の想いを表現することができるようになります。こうした総合的な表現力によって初めて、私たちは他者の共感を得ることができるようになるのです。
表現力が注目され始めた背景
近年この「表現力」が注目されています。その背景には日本の学校教育のあり方の変化があると言えるでしょう。2008年、文部科学省は学習指導要領を改定し、「思考力・判断力・表現力等の育成」を掲げました。これは、先生が生徒に教えを授けるという従来の一方通行型の授業とは違い、生徒ひとりひとりが主体的に考え、さらに自分の考えを他者に対して表現するという学びの形です。日本語では「意見する」という言葉がネガティブなニュアンスで使われるように、他と異なる自分の意見を述べることは良くないことだと考えられていました。しかしそれが大きく変わってきたのです。
この根本的な変化に至った理由はPISAでした。PISAとはOECD(経済協力開発機構)加盟国を中心に行われる国際的な学習到達度調査で、3年ごとに実施され結果が発表されます。かつて高度成長期から経済大国に上り詰めた日本の子供たちは、世界トップレベルの学力を誇っていました。しかし21世紀に入ると、その地位が年々低下し続ける事態になります。その原因はPISAが重視する読解力と表現力でした。日本の授業は問題を与えられて正解を答えるというトレーニングを重ねる形なので、単純なテストでは高得点を出せます。しかしPISAで重視される自由記述問題では、日本の子供は白紙回答が続出したのです。自分の考えの過程を他者に伝わるように表現するという術を学んでこなかったのですから、戸惑うのも仕方ありません。一方で多くの先進国の子供たちは、幼い頃からプレゼンテーションの練習や演劇のクラスを通じて、自然と表現力を磨いていました。この衝撃的な結果を受けて、日本社会も重い腰をあげたというわけです。
表現することを意識してスキルを伸ばす
日本の教育・人材育成の観点に欠けていた、表現力や伝える力、相互理解の重要性。これらのスキルを向上させるために、様々な現場でアクティブラーニングや演劇教育が導入されています。これまで娯楽や文化というくくりで語られ、外から「見るもの」として捉えられていたエンターテイメントが、コミュニケーションスキルを学ぶツールとして注目されるようになりました。ちなみに「entertainment」の「enter」は「間(ま、あいだ)」という意味であり、ラテン語の「inter」が由来です。「international」や「internet」という言葉でもわかるように、何かと何かの間を埋め、結び付ける役割を意味します。「tain」は「contain(包含する)」や「obtain(手に入れる)」のように「保持する」という意味があり、最後の「ment」には単語の末尾に付いて名詞にするはたらきがあります。つまり「entertainment」という言葉は、全体として「人と人の間を結び付け、それを固く保持するもの」という意味になっていることがわかります。これは、そもそも昔からエンターテイメントというものが、人間や社会にとって重要なものであると考えられていたことを示していると言えます。これからの時代に最も必要な能力「表現力」を、ぜひエンターテイメントを通じて磨いていきましょう。
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